樟脳玉(しょうのうだま)

TERAYAMA Shizumi/ 1月 19, 2013/ 落語/ 0 comments

$こうたろう.com

「愛妻家」という言葉は、もう時代遅れなのでしょうか。

最近のテレビドラマを見ても
「結婚しない」とか「離婚」とかそんな文字ばかりが踊っている気がします。

それでも、先日見たドラマの中で
「一人が二人になり、二人が三人になる。家族って育つもの」(的なニュアンス)
という台詞があって、そうだよなあとしみじみしたり。

そんなわけで、最近はもっぱらミニシナリオシリーズが続いていますが
今日は、出産を直前に控えた、パパの奮闘記。

「情熱の薔薇」

登場人物
・牧 翔平(32)…CATVの技術部
・藤本りつ子(64)…マンションの管理人

○ 都内某所にあるマンション・敷地内(夜)
  外は台風で荒れている。
  配電盤の蓋を開き、修理している翔平。

りつ子「あんたの会社も大変だね。雨が降るたび呼びつけられて。いじわるでやっ てるんじゃないんだよ。私も一応立場上、ねえ」
翔平「(修理しながら)はい。それは、もう、本当に申し訳ございません」
りつ子「あんたに文句言っても仕方ないんだけど。だってあんたモテそうだし。でも 突然テレビが見れなくなったら、誰だって困るでしょ。高いお金払っているんだか ら」
翔平「おっしゃる通りです。本当に……」

  謝りかけたところで、携帯電話が鳴る。

翔平「ちょっと失礼します……はい、翔平です……お父さん? はい……ええ、は い、智子が? だって予定日は明日のはずじゃ……はい、すぐに向かいます……はい」

  携帯電話を切る。
  すぐに修理に戻る。

りつ子「なあに? どうしたの?」
翔平「いや、ちょっと家内が産気づいたって」
りつ子「あら、あんた独身じゃないの?」
翔平「予定日は明日だったんですけど」
りつ子「台風のせいね。この嵐のおかげで予定が狂ったのよ」
翔平「そういうものですか?」
りつ子「私が、3人目の子どもを産んだ時なんか、あれは、確か、満月の夜で……」
翔平「はい、終わりました。これで大丈夫です。確認をお願いします」

  りつ子、自室へ戻り、テレビをチェックする。

りつ子の声「ああ、映った、映った。ニノも笑顔だし大丈夫みたいよ」
翔平「じゃあ、この書類にサインをお願いします」

  カバンから書類を取り出す、翔平。
  りつ子、部屋から出てくる。

りつ子「(サインをしながら)話、途中だったね。ええっと、そう、満月の夜に……」
翔平「(遮って)ありがとうございます。この度は本当に申し訳ございませんでした。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。それでは失礼します」

  足早に引き上げる、翔平。

○ 営業用の自動車内
  路肩で駐車中。
  叩きつける雨と風。
  助手席には薔薇の花束がある。
  翔平、会社に電話をかけている。

翔平「……だって、今日はもう3件もオーバーしてるんですよ。他の誰かにお願いできませんか……ええ、台風のせいだってことはよく分かるんですけど。こっちも 台風のおかげで、ちょっと事情が……あ、なんだよ、くそっ!」

  翔平、自動車をUターンさせる。
     ×  ×  ×
  倒木が道路をふさいでいる。

翔平「こんな時に、ふざけんなっ!」
     ×  ×  ×
  携帯電話が鳴る。

翔平「はい、翔平です……すいません、お父さん。もう少し……ええっ! もう分娩 室に入った? 展開早くないですか? ……聞こえてます。なんか唸るような雄  叫びが……あ? 智子か? そう、頑張れ! わっしょい! わっしょい!」

     了


Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>