ヤギの金玉のようなものだ、世の中は

TERAYAMA Shizumi/ 1月 18, 2012/ へんなことわざ/ 2 comments

$こうたろ.com
昔、ある日男が一人やってきて
その岬の波のどよめく陽のささぬ浜辺に立ってこう言った

この海原越しに呼びかけて 船に警告してやる声が要る その声をつくってやろう

今までにあったどんな時間 どんな霧にも似合った声をつくってやろう

たとえば 夜更けてあるきみの傍の空っぽのベッド 訪うて人の誰もいない家
また葉の散ってしまった晩秋の木々に似合った 
そんな音をつくってやろう

鳴きながら南方へ去る鳥の声 十一月の風や 寂しい浜辺に寄する波に似た音 
そんな音をつくってやろう

それはあまりにも孤独な音なので 誰もそれを聞きもらすはずはなく

それを耳にすれば誰もがひそかにしのび泣きをし
遠くの町で聞けば いっそうわが家があたたかくなつかしく思われる 
そんな音をつくってやろう

おれはわれとわが身をひとつの音 ひとつの機械としてやろう

そうすればそれを人は霧笛と呼び
それを聞く人はみな
永遠というものの悲しみと 生きることのはかなさを知るだろう……

レイ・ブラッドベリ「霧笛」より

もしかしたら、ブラッドベリの作品ではなくて
夢の遊民社の「半神」で知った人も多いのではないでしょうか。

僕もその一人です。

初めて読んだという人は、この機会にぜひ心の片隅にしまっておいてください。

ここだけ抜粋して読むと
なんとまあ物悲しい詩なんでしょうと思われるかもしれませんが
実際の物語も、決してハッピーエンドへ向かうものではありませんでした。

それでも僕は時々この詩を思い出します。
人生に浮かれている時も、人生に疲れている時も
時々ふと思い出しては、我を取り戻すのです。

聞こえないはずの霧笛(「むてき」と読みます)の音に耳を澄ませていると
自分という存在が希薄で小さくて無力であるということ実感します。

けれどそれは悲観するものではありません。
希薄で小さくて無力であるけれど、確実にそこに存在しているのです。
人間なんて、たかだかそれっぽちのことじゃないかと思えるのです。

思想や信仰が人を殺す。
それが人類の歴史だとするならば
人間なんて、本当にちっぽけでいいんじゃないかとさえ思います。

残念なことに、日本では年間3万人以上もの人が
自らの手で、自らの命を絶ってしまいます。

戦争や紛争で亡くなる人たちとの違いはどこにあるのでしょうか。
人間の命はみな平等、ではないことを僕たちは薄々と感づいています。
運命という言葉で片付けることのできない理不尽さを知っています。

だからこそ。

あなたがそこにいてくれることの幸せ。
それがちっぽけな人間にできる平等な祈りなんじゃないかと思います。

折しも本日は、阪神淡路大震災があった日です。
当時は対岸の火事でしかなかったことを
去年の東日本大震災を経験して気が付きました。

祈るべき神はいないのかもしれない。
けれど、あなたがそこにいてくれることの幸せは
ヤギの金玉にだって祈ることができるのです。

この物語は以下の詩で終わります。

霧笛だ、霧笛が呼ぶんだ

君は遠くから来たんだ 遠く深いところから
千マイルもの向うの 20マイルも深い海底から百万年もの時を経て
そんなに長い間待っていたあれは最後の一群

ここに5年前に人が来て この燈台を建てた
そして霧笛を備え付け それを鳴らすんだ

君は眠っている 深い海の底で、遠い世界の夢を見ている
昔 君たちの群が幾千、幾万もいた頃の夢
 
今ここに君のいる場所はない
君は隠れていなけりゃならない

霧笛を鳴らすんだ 響いては消え 響いては消える
君は目覚め、ゆっくりと上昇する

急に上がったら体が破裂してしまうから3ヶ月ほどもかかるだろう
冷たい水を千マイルも越えて来る いく日もかかって
そして、やっとやって来る
やって来る


2 Comments

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    なぜ金玉~? 意味がよく分からんのだが

  2. SECRET: 0
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    >ken13_gkさん
    これはコンゴ民主共和国の諺だそうです。なので、コンゴの友人に聞いてみてください(笑)
    具体的に解説するとね、面白みが半減するので、まあ、想像してみてください。

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