五人廻し(ごにんまわし)

TERAYAMA Shizumi/ 1月 3, 2013/ 落語/ 0 comments

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「春を待つ男」

 世界は動かない。
 男とこだま。
 あるいは、男のこだま。

男「『あなたといるとジェットコースターに乗っているみたい。』彼女は彼にそう告げ  ました。彼は素直に褒め言葉として受け取ったのですが、彼女の本心は真逆でし た」
こだま「右手にリング」
こだま「おそろいのリング」
こだま「おそろいのストラップ」
男「彼は感情的で衝動的な人間でした。いつも気分に支配されていました。動かな い時はテコでも動かないけれど、一度動き出したら、壊れるまで止まる術を知り  ませんでした」
こだま「激突注意」
こだま「と、書かれた看板に激突」
こだま「する、彼」
男「は、冬という季節が苦手でした。低い空が窮屈に思えたからです。手を伸ばせ ば、今にも落ちてきそうな空色に、得も知れぬ不安を覚えていました。だからいつ もコタツの中で春を待ちわびていました」
こだま「待つんだね」
こだま「待つわ」
こだま「待つわ」
こだま「いつまで待つわ」

 そして10年が過ぎた。

男「彼はずっと待っていました。ずっとずっと待ち焦がれていました。相変わらず感 情的で衝動的な毎日を過ごしていたけれど、それでもじっと待っていました。しか し、いつになっても空が晴れることはありませんでした」
こだま「死者に口づけ」
こだま「優しいキス」
こだま「冷たいキス」
男「本当は理解していたのです。どれだけ待とうと、何も始まりはしないのだと。そ  んなことは、とっくに気がついていたのに、気がつかないフリをしている自分に気 がついてゾッと鳥肌が立ちました。そして待っている10年の間に彼はあることを学 びました。春は始まりの季節でもあるけれど、終わりの季節でもあることを。出逢 いがあれば、別れがあるのだということを。


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